大阪地方裁判所 昭和54年(ワ)8565号 判決
【主文】
一 被告は、別紙イ号物件目録、同ロ号物件目録、同ハ号物件目録、同ニ号物件目録記載の各換気口を製造し、販売し、展示してはならない。
二 被告は、その占有にかかる第一項記載の各物件並びにその製造用金型を廃棄せよ。
三 被告は原告に対し、金四七三万五二三二円及びこれに対する昭和五五年一月九日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
四 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
五 訴訟費用はこれを五分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
六 この判決は、原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。
【事実】
第二 請求の原因
(主位的請求に関するもの)
一1 原告は、左記意匠権(以下「本件意匠権」といい、その意匠を「本件意匠」という)を有する。
記
出願 昭和四二年二月二一日(意願昭四二―五二三〇)
登録 昭和四四年六月一六日(第三〇一三八六号)
意匠に係る物品 取付け用通風器
登録意匠 別紙登録意匠図記載のとおり
2 本件意匠には左記(一)ないし(六)の類似意匠が附帯している(以下順次「類似意匠(一)ないし(六)という)。
記
(一) 類似意匠(一)
出願 昭和四四年九月六日(意願昭四四―二八九二八)
登録 昭和四六年五月一一日(第三〇一三八六号の類似一)
意匠に係る物品 建物用通風口枠
登録意匠 別紙類似意匠図(一)記載のとおり
(二) 類似意匠(二)
出願 昭和四五年三月五日(意願昭四五―七二七四)
登録 昭和四六年五月二六日(第三〇一三八六号の類似二)
意匠に係る物品 建物用換気口枠
登録意匠 別紙類似意匠図(二)記載のとおり
(三) 類似意匠(三)
出願 昭和四五年三月五日(意願昭四五―七二七五)
登録 昭和四六年五月二六日(第三〇一三八六号の類似三)
意匠に係る物品 建物用換気口枠
登録意匠 別紙類似意匠図(三)記載のとおり
(四) 類似意匠(四)
出願 昭和四五年三月五日(意願昭四五―七二七六)
登録 昭和四六年五月二六日(第三〇一三八六号類似四)
意匠に係る物品 建物用換気口枠
登録意匠 別紙類似意匠図(四)記載のとおり
(五) 類似意匠(五)
出願 昭和四六年七月八日(意願昭四六―二四四一九)
登録 昭和四七年一一月四日(第三〇一三八六号の類似五)
意匠に係る物品 建物用通風口枠
登録意匠 別紙類似意匠図(五)記載のとおり
(六) 類似意匠(六)
出願 昭和四五年六月三日(意願昭四五―一八四〇四)
登録 昭和四八年七月七日(第三〇一三八六号の類似六)
意匠に係る物品 建物用換気口枠
登録意匠 別紙類似意匠図(六)記載のとおり
【理由】
第一主位的請求の当否について
一請求原因一、(本件意匠権の存在)、2(類似意匠(一)ないし(六)の附帯)の事実は当事者間に争いがない。
二被告がイ号、ロ号物件を過去の一時期製造販売していたこと、現にハ号、ニ号物件(但し、それらの細桟の構造に争いがあることは後記のとおり)を製造販売していることは当事者間に争いがない。
原告は、ハ号、ニ号物件の細桟の形状が別紙「原告のハ号、ニ号物件細桟図」に表示のとおりの断面台形状であると主張し、被告は右各物件の細桟の形状が別紙「被告図面」のハ号、ニ号物件細桟図に表示のとおり断面長方形であると主張するところ、それぞれハ号物件、ニ号物件であることにつき当事者間に争いのない検乙第一、第二号証によれば、ハ号、ニ号物件の細桟の形状は、別紙ハ号物件目録、同ニ号物件目録の各説明文中における細桟7に関する記載及び右各目録に添付の細桟7'拡大斜視図に表示のとおりであり、その断面が台形状をなしているものの原告が主張するほど上底と下底との長さに差のないことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
三原告は、被告製品の意匠が本件意匠に類似する旨主張するので検討する。
イ号ないしニ号物件が本件意匠に係る物品と機能及び用途を同じくする「取り付け用通風器」であることについては前記一、二の事実と弁論の全趣旨により認められるので、以下イ号ないしニ号意匠が本件意匠に類似するか否かにつき検討する。
1 本件意匠の構成
<証拠>を総合すると、本件意匠の構成は次のとおりであると認められる。
(一) 全体が一体の板状材料で形成され、縦方向の約二倍の横幅を有する横長長方形枠である。
(二) 正面の取付枠内でかつ取付枠表面と同一高さに、取付枠の約三分の一の幅の四本の横桟を等間隔に形成する。
(三) 取付枠表面に、該枠より隆起した端部が先細で、表面が円弧状の突出桟を、横方向中央に一本、縦方向には中央に最も長い桟を一本左右にこれより短い桟二本、合計三本を、周枠表面を縦方向にほぼ四等分するように、それぞれ配置形成する。
(四) 取付枠の外周に、(二)記載の幅とほぼ同程度の折返し周縁を連成し、更にその内側に、取付枠内周から背面へ折返し周縁のほぼ四倍程度突出する横長長方形の嵌込枠を形成する。
(五) 該嵌込枠内に、(二)記載の横桟の上辺及び取付枠下辺の内側縁から背面の上部方向へ傾斜する傾斜壁を形成する。
(六) 該嵌込枠内に、(二)記載の横桟下辺から背面に向けて、通気用の小間隙を形成すべく周枠と垂直に細桟を設け、(三)記載の縦方向の隆起突出桟と(二)記載の横桟とによつて形成される一六の区画に、一区画に五個、合計八〇個の小間隙を形成する。
(七) 取付け用通風器である。
被告は、本件意匠の構成(三)中に、「縦横の突出桟の交叉部をX字状の模様とすること」を追加すべき旨主張する。なる程前掲甲第一三号証によれば、本件意匠を正面からみると、三本の突出縦桟と一本の突出横桟との交叉部は略X字状をなしていることが認められる。
しかしながら、同交叉部がこのような形状を呈するのは、突出縦桟と突出横桟との各表面を円弧状とした結果に外ならず、ことさら同交叉部をX字状の模様としたわけでないことは、同交叉部の形状自体によつて明らかである。したがつて、同交叉部の形状をとりたてて本件意匠の構成の一つとして表現するのは相当でない。
2 意匠の類否を判断するに当たつては、両意匠を全体的に観察し、意匠における要部を対比してなすべきものであり、その際、登録意匠の要部は、当該意匠の出願前にその分野における公知公用の意匠(以下「公知意匠」という)が存する場合にはこれを参酌して当該意匠における創作性の存否、程度を把握して定められねばならない。
また類似意匠は、本意匠の類似範囲に属するものについてその登録が認められるのが通常であるから、本意匠の類似範囲を定めるに当たつては、類似意匠を参考にするのが相当である。
3 そこでまず、被告の主張に基づき公知意匠の存否について検討する。
(一) 証人戸江武久の証言によりいずれも被告主張の写真であることが認められる検乙第四号証、検乙第一四ないし第一七号証、証人戸江の証言及び被告代表者本人の供述(第一回、但し後記採用しない部分を除く)を総合すると、次の事実が認められる。
本件意匠出願前、「屋切り」と呼ばれる左記(イ)ないし(ニ)のような各種の木製換気口が一般の建物に設置されていたが、それらの構成は大略次のとおりである。
すなわち、(イ)横長長方形枠であつて、正面の取付枠内でかつ取付枠表面とほぼ同一高さに、数本の横桟を形成し、取付枠の表面に隆起突出桟を横方向中央に一本、縦方向に中央に最も長い桟を一本左右にこれより短い桟二本合計三本を周枠表面を縦方向にほぼ四等分するように配置形成してある木製換気口、(ロ)右の取付枠内の横桟に代えて網が張つてあるほかは同一構成の木製換気口、(ハ)右隆起突出横桟及び隆起突出縦桟がそれぞれ複数本配設してあるもの、及び(ニ)取付枠内の横桟及び取付枠表面上の隆起突出縦桟はあるものの、隆起突出横桟の全く配設されていないものなどである(以下「公知意匠」という。)。
そしてこれら公知の屋切りは、建物建築の際、ばらばらの部材を組み合せ、建物と一体をなすものとして設置されており、本件意匠に係る物品の如く、独立した物品として一体形成された換気口ではない。
更に、公知意匠における隆起突出縦桟と隆起突出横桟とは、その交叉部において段違いに交叉しているか、さもなくば同縦桟、同横桟に切込みを設けて交叉させているのに対し、本件意匠においては、同縦桟と同横桟との交叉部は一体となつて同一平面をなしている。
以上の事実が認められる。
(二) 被告は、被告会社々員槇下正男から、同人が自宅に設置していた木製換気口をプラスチックにて製造することを被告代表取締役に提言し、被告は、これに基づき昭和四一年一〇月一八日金型図面を完成し、同年一一月から「KY」を製造販売するに至つたと主張し、それに副うかの如き検乙第四号証の写真4、同第六ないし第一〇号証、第一九号証、証人中村健郎、同戸江武久の各証言、被告代表者本人(第一回)の供述が存在する。しかしながら、右各検証物・人証は、以下に述べる理由によりいずれも採用し難い。
まず、検乙第七ないし第九号証はいずれも被告が「KY」を昭和四一年一二月に販売したことを買受会社が証明する内容の証明書であるところ、これら証明書は、いずれもその作成年月日欄、証明者欄を空白とし、「KY」の五枚の写真を予め添付し、証明事項が予め印刷してある「証明書」に、右作成年月日欄に数字を記入し、証明者欄に記名押印して作成されており、証明の内容も、証明書作成日である昭和五七年九月一三日から約一五年前の購入製品の意匠の詳細に関するものであるから、右検乙号各証により被告の主張を認めるには、躊躇せざるを得ない。
次に検乙第一九号証には、木製換気口の写真の説明として、槇下正男の妻の名で、亡夫が右換気口を昭和四一年に考え出し、「その頃」取り付けた旨の説明がなされているけれども、本件意匠の出願日である昭和四二年二月二一日の前に右写真の換気口が取り付けられたか否かの年月の特定が不明確であるから右検号証は採用できない。
また検乙第六号証の図面には、被告が主張する「KY」の構成の換気口枠が図示されており、「昭和四一年一〇月一八日」の日付と「管ブラスチック金型KK」の記名と中村肆郎の押印がある。そして証人中村肆郎の証言中には、中村が被告から手渡された木製換気口に基づいて昭和四一年一〇月一八日右図面を作成し、右図面に基づき昭和四一年一一月中旬頃「KY」の金型を完成したうえ被告に納入したと述べる部分があり、証人戸江武久の証言、被告代表者本人(第一回)の供述中にもこれに見合う部分がある。
しかしながら、右図面は製品図面である(証人中村の証言による)し、菅プラスチック金型株式会社は、昭和四〇年二月一八日付で解散登記がなされており(成立に争いのない甲第二〇号証による)、昭和四一年一〇月当時金型作成の営業を行つていたことにつき疑念が持たれるのみならず、右日時における金型納入の事実、更には昭和四一年一〇月被告が「KY」製造に着手し、同年一一月には販売を開始したことにつき、右各証言・供述を客観的に裏付けるに足りる納品書、帳簿類などの証拠がみられない本件においては、これらの証言・供述部分は、にわかに採用し難く、ひいては右検乙第六号証の存在も未だ被告主張の時期に「KY」が製造・販売されていたことの証拠となすに足らない。
従つて、昭和四一年一一月より「KY」の製造販売が行われた旨の被告主張事実は認められず、右事実を前提とする公知の主張は理由がないから「KY」の意匠と本件意匠との対比の要はない。
4 そこで、本件意匠と前記3(一)で認定した公知意匠とを対比して本件意匠の創作性の有無を検討するに、公知意匠に係る木製屋切りが建物から独立した物品とはいえず、しかも、ばらばらの部材を組み合わせたものであるのに対し、本件意匠においては、その意匠に係る物品が物品としての独立性を有することは勿論、構成(一)のとおり全体が一体の板状材料で形成されている点、更には、突出縦桟と同横桟における形状などに相違がみられることを考慮すると、前記公知意匠があるからといつて本件意匠に創作性がないということはできず、結局右公知意匠の存在は、本件意匠の要部決定に影響を及ぼさないというべきである。
かかる前提のもとで本件意匠の要部をみるに、前掲甲第一号証、第七ないし第一九号証によれば、本件意匠のうち看者の眼をもつとも惹く構成すなわち本件意匠の要部は、構成(一)・(三)の、「全体が一体の板状材料で形成された長方形枠の取付表面に、該枠より隆起した突出桟を横方向に配置し、縦方向には中央に最も長い桟を一本、左右にこれより短い桟二本合計三本を、周枠表面を縦方向にほぼ四等分するように、それぞれ配置形成する」ことにあるということができる。
5 被告意匠の構成について検討するに、
イ号・ロ号物件を説明したものであることにつき争いのない別紙イ号物件目録、同ロ号物件目録の記載及び前記認定にかかる別紙ハ号物件目録、同ニ号物件目録の記載、いずれも、原告主張の物件であることにつき争いのない検甲第一、第二号証、被告主張の物件であることにつき争いのない検乙第一、第二号証を総合すると、イ号意匠の構成は、被告の主張三1(一)'ないし(七)'のとおり分説するのが相当であり、またロ号意匠の構成は、イ号の構成(六)'中「五個の小間隙」とあるのを「四個の小間隙」と改めるほかはイ号意匠の構成と同一であるとし、また、ハ号・ニ号物件は前記認定のとおりイ号物件と細桟の形状を異にするが、これは意匠の構成上無視しうるほどの微細な差異にすぎないから、ハ号・ニ号意匠の構成はイ号意匠のそれと同一に解するのが相当である。
6 そこで本件意匠とイ号ないしニ号意匠を対比する。
(一) イ号ないしニ号意匠の構成(一)'、(四)'、(五)'、(七)'は、それぞれ本件意匠の構成(一)、(四)、(五)、(七)を充足する。
(二) しかし、イ号ないしニ号では、構成(二)'のとおり、取付枠の約四分の一幅の三本の横桟が取付枠内で一対二対二対一の間隔で形成されているのに対し、本件意匠では、構成(二)のとおり、取付枠内で取付枠の約三分の一幅の四本の横桟を等間隔に形成している点が異なる。
(三) また、イ号ないしニ号意匠では、構成(三)'のとおり、横方向に同長の桟が二本、周枠表面を横方向にほぼ三等分するように配置してあるとともに、突出桟が端から端まで均一幅で表面が平坦、端部が背高くなつた弓形状であるのに対し、本件意匠では構成(三)のとおり、突出桟が横方向には中央に一本配置されており、突出桟の形状が先細で表面が円弧状をなしている点が異なる。
(四) イ号・ハ号意匠では、構成(六)'のとおり、(三)'記載の縦方向の隆起桟と、突出桟を含む横桟とによつて形成される二〇区画に、一区画につき五個の小間隙を形成し、ロ号・ニ号意匠では、同様の二〇区画に一区画につき四個の小間隙を形成しているのに対し、本件意匠では、構成(六)のとおり、(三)記載の隆起突出桟と(二)記載の横桟とによつて形成される一六区画に、一区画につき五個の小間隙を形成している点が異なる。
7 そこで、右共通点・相違点をもとに、被告意匠が本件意匠に類似するか否かをみるに、前記のとおり本件意匠の要部は、「全体が一体の板状材料で形成された長方形枠の取付枠表面に、該枠より隆起した突出桟を横方向に配置し、縦方向には中央に最も長い桟を一本、左右にこれより短い二本合計三本を、周枠表面を縦方向にほぼ四等分するように、それぞれ配置形成する」点に存するところ、イ号ないしニ号意匠が右要部を備えていることは、右6(三)で検討したところにより明らかであるから、イ号ないしニ号意匠は本件意匠に類似するというべきである。
なるほど、前記6(三)で認定のとおり、隆起突出横桟の数が本件意匠では一本なのに対し、イ号ないしニ号意匠では二本あり、しかもイ号ないしニ号意匠の隆起突出縦桟・横桟はいずれも端部が背高くなつた弓形状をなしている点に本件意匠との相違がみられる。
しかしながら、前記一の、当事者間に争いがない類似意匠の構成をみると、類似意匠(三)、(四)、(五)はいずれも隆起突出横桟を二本とする構成を採り、しかも類似意匠(四)は隆起突出縦桟・横桟の各端部が背高くなつた弓形状をなす構成を採つており、これら類似意匠の構成を参酌すると、右隆起突出桟の数、形状のものも又本件意匠の類似範囲に属すると解するのが相当である。
また、本件意匠における隆起突出桟は端部が先細で表面が円弧状なのに対し、イ号ないしニ号意匠の隆起突出桟は末端に至るまで同一幅でかつ平坦面をなしている点に相違がみられるところから、被告は、イ号ないしニ号意匠がいささか古風な、格調ばつた簡素かつ質素な感じを有するのに対し、本件意匠は装飾的で華美な感じを有すると主張するけれども、右突出桟の形状の相違が必ずしも主張のような美観上の相違を来たしているとはいえないし、前記認定・説示のとおり、イ号ないしニ号意匠は本件意匠の要部を備えており、かつ本件意匠の構成(一)、(四)、(五)、(七)を充足しているのであつて、両意匠におけるこれらの共通点に比べ、被告指摘の右形状の相違点は部分的なもので、両意匠における、かかる共通点に由来する類似性を否定するほど顕著なものとはいい得ないから、前記判断に消長を来たさない。
被告の主張に副う成立に争いのない乙第一五号証(鑑定書)の見解は、前記認定・説示したところに照らし採用できない。
四被告は、「KY」意匠の製造に着手していたことによる先使用権を主張するところ、前記「KY」意匠の公知に関する認定・説示のとおり「「KY」製造・販売の事実は勿論金型作成の事実も認め難く、仮に検乙第六号証の図面が昭和四一年一〇月一八日に作成されたものであつても、右製品図面が作成されていただけでは、いまだ「KY」の生産その他の事業の準備をしていたとはいい難いから右先使用権の主張も又採用の限りでない。
五以上説示のとおり、被告は、業として被告製品を製造・販売することにより、原告の本件意匠権を侵害したといわなければならない。
被告は、イ号・ロ号物件の製造を昭和五〇年四月以降止めたと述べるところ、仮にそうであるとしても、イ号・ロ号意匠が本件意匠の類似範囲に属することを被告において争つていることは弁論の全趣旨により明らかであり、そうとすれば、被告において前同様の侵害行為をするおそれがあるものと認められる。
六原告主張の不当利得の成否につき検討する。
以上で認定・説示のとおり、被告が被告製品を製造・販売した行為は、本件意匠の実施行為に当たり、これを被告が原告の許諾なしに行なつたことは弁論の全趣旨により認められる。
原告は、被告製品の販売により被告の挙げた利益額を不当利得額として主張するけれども原告本人の供述によれば、原告は個人として本件意匠を実施して製品の製造・販売をしたことはないことが認められるから、被告が被告製品を販売して如何様な利得を得ようとも原告には右被告の利得によつて侵害されるべき原告自らの実施による得べかりし利益相当の損害の発生はあり得ないので、本件においては、被告の販売利益そのものを直ちに不当利得額(原告の損失)とするわけにはいかず、結局、被告が被告製品を販売したことにより実施料相当の利得を得、そのため原告はこれと同額の損害を被つたに止まるものというべきである。
そこで本件意匠権の適正実施料率についてみるに、<証拠>によれば、原告は、昭和四五年三月六日、訴外松本金物株式会社に対し、実施料を販売価格の三パーセントとする約定で本件意匠権の専用実旋権を設定していたことが認められ、他に本件意匠権の適正な実施料率について立証のない本件においては右実施料率をもつて相当と認める。
そこで被告製品の製造販売数量と販売価格についてみるに、被告はこれらにつき前記事実欄第三請求原因に対する認否(主位的請求に関するもの)五1、2に記載の限度において自認している。
一方原告は、被告が昭和四六年七月から同五四年一二月までイ号・ハ号物件合計七六万五〇〇〇個を単価四五〇円で、ロ号、ニ号物件同数を単価三〇〇円で販売したと主張し、原告本人の供述中にはこれに副う部分があるけれども、右数値を客観的に裏づけるに足りる証拠がないので、右供述部分を採用し難く、他に被告製品の販売数量・単価が被告の前記自認した数額を超えることを認めるに足りる証拠はない。
No.
物件
期間
販売個数
単価(円)
合計販売額 (円)
①
イ号(KYB)
昭和四六年七月、
八月
三四五八
二八〇
九六万八二四〇円
②
ロ号(KYA)
〃
七五八三
一四五
〇九万九五三五
③
イ号・ハ号
(六甲大)
昭和四六年九月
~同五三年一二月
一三万四九八〇
二八〇
三七七九万四四〇〇
④
〃
昭和五四年一月
~同年一二月
一万八四〇六
六〇〇
一一〇四万三六〇〇
⑤
ロ号・ニ号
(六甲小)
昭和四六年九月
~同五三年一二月
三一万三六七七
三〇〇
九四一〇万三一〇〇
⑥
〃
昭和五四年一月
~同年一二月
四万二七七四
三〇〇
一二八三万二二〇〇
合計
一億五七八四万一〇七五円
〔販売個数の算式〕
(個) (月)(月) (個) (個) ( ) (月) (個)
① 41,500÷24×2= 3,458 ④ 190,200÷124×12= 18,406
② 91,000÷24×2= 7,583 ⑤ 442,000÷124×88=313,677
③190,200÷124×88=134,980 ⑥ 442,000÷124×12= 42,774
右被告の自認したところにしたがつて、原告主張の期間内における被告の利得額を算出すると次のとおりである(販売個数は月割で、端数切捨にて計算した)。
そうすると、右期間中の総販売高一億五七八四万一〇七五円の三パーセントである四七三万五二三二円(円未満四捨五入)が被告の不当利得額ということになる。
(なお、原告は、本件において悪意の不当利得を主張するけれども、以上の認定・説示から明らかなとおり、被告の不当利得の性格が原告に支払うべき実施料相当の金銭の支払を免れたことによるもので、現存利得額は右支払を免れた全金額というべきであるし、利息金の請求もしていないので、悪意についての判断をする要を見ない。)
第二結論
以上の次第であるから、原告の本訴請求は、その主位的請求中、被告に対し、被告製品の製造販売・販売のための展示の差止め及びその占有にかかる被告製品・その製造用金型の廃棄、並びに、不当利得金四七三万五二三二円及びこれに対する原告が右金員の返環請求をした訴状送達の日の翌日である昭和五五年一月九日から支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余の請求は理由がないからいずれも棄却する。
(潮久郎 鎌田義勝 徳永幸蔵)